ミシェル・ブラスが語る「本物の包丁」
本物の包丁は、決して素材を傷つけない。──ミシェル・ブラス 私が包丁に求めるのは、第一に正しく研げることであり、第二にバランスが良くて、手にしっくりとなじむことです。
正しく研がれていない包丁でハーブを刻むのは、それを傷つけるのと同じです。もしハーブの葉を傷つけてしまったら、そのハーブからは"血"が失われるのと同時に、中身も美しさも失われて、その場で死んでしまいます。それから、私にとって「切る」という行為は、調和を見いだすことでもあります。たとえば、日本の弓道では、矢を射る者と弓矢が一体化していますね。矢がまさに人間の体の一部になった瞬間に放たれるなら、たとえ目を瞑っていても命中するものではないでしょうか? 射手と弓矢の関係は、料理人と包丁の関係でも、同じなのです。ですから、自分の手の一部になりえる包丁を使えば、いわば無心の境地に至って、どんな素材も傷つけることなく、生きた状態のままで切ったり刻んだりすることができるのです。
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